Vol.90 作り手によって
主任専門学芸調査員 主濱建明
2019.8
アート・シネマ上映会、8月の作品は、1946年公開のフランス映画「美女と野獣」。18世紀に綴られた寓話(おとぎ話・・・昔むかし、あるところに)を原作とした名画です。
「美女と野獣」といえば、これまで何度も映画やテレビドラマ、舞台になっています。最も近いところでは2017年公開のディズニー映画、テレビのロードショウ番組でも放送されましたので、観た方も多いかもしれません。2017年が最新、1946年が最初として、2編をあわせて観たら、それぞれ、どう感じるのだろうか。素朴な思いつきで、試写の現場からお伝えします。ネタバレなし。
2017年版は、1991年に大ヒットした長編アニメーションの実写版です。主人公ベルは、本好きで好奇心旺盛、広い世界を夢見る明るい娘。ミュージカル仕立てですので、登場人物たちの明るく伸びやかな歌声と動きで、ぐいぐいと物語世界に誘われます。野獣の住む城も、コミカルなキャラクターたちが活躍する魔法ワールド。野獣はとてもナイーブで、刻々と迫る自分の終末を、なかば受け入れているようです。心を結んだベルと野獣が手を取り合い踊る、ダンスの場面の美しさといったら・・・。
さて、1946年版。主人公ベルは、意地悪な姉たちに隠れた、心の清らかな娘として登場します。物語は進み、野獣の住む薄暗い古城へ。城の様子がモノクロ映像で幻想的に描かれ、得体の知れない怖さに引き込まれていきます。そして、野獣。自分の姿のために、誰にも愛してもらえない孤独に苦しんでいますが、お互いに心を開いたベルに、信頼の証を手渡します。役者は、わずかな目の動きで心の動きを表現していきます。
「外見ではなく、心の美しさ」・・・ともに、普遍的なメッセージを隠し持ちながら、登場人物の設定や物語の構成、映画としてのつくりも、(当然ですが)かなり異なるものです。同時に、時代の中で美しい映像を追求する、それぞれの作り手の情熱に敬服するばかりです。
1946年版の終盤は、ジャン・コクトー監督の采配(魔術?)による驚きの展開に、目がくらむかもしれません。では本編を、ご覧あれ。
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DVD発売元:アイ・ヴィー・シー