Vol.86 美術館界隈/自然観察日誌(春爛漫編)
副館長 小平 浩
2018.5
美術館は広々とした公園地域に立地しているケースが多く、来館者は美術鑑賞に加え、館外でも様々な発見や感動体験をし、その結果、その地ならではの複合的なココロの付加価値を実感できるように設計されています。
一昨年、美術館に着任して以来、元々の趣味が必要以上に高じて、家人に何やかやと理由を述べてあちこちの美術館を以前にも増して漫遊漫歩するようになりました。何トカ芸術の森や湖畔の親水公園等のいわゆる憩いのエリアに鎮座する美術館を訪ねる度にほほぉと感心します。
一方、いや此処も素晴らしいけれど、岩手県立美術館界隈も四季折々に色とりどりの花々が賑やかに来訪者を迎えてくれるし、その気になって目を凝らせば、愛らしい野鳥や運が良ければキュートな小動物達にも出会える、結構高いランクの自然公園機能を併せ持っているんだぜ-と誰に言うでもなく、独り自慢していることがあります。
美術館で名作・名品を堪能し、かつ周辺を歩いて趣深い自然の営みに出会う、充実感が2倍の体験をおススメしたく、当館界隈の「春爛漫」の様子をお届けします。拙文お許しください。
どの季節にも見所はありますが、やはり春は格別です。
美術館周辺の中央公園では、先ずマンサクの花が開花一番乗りを告げ、それを追いかけるように背高のコブシが誇らしげに樹冠頂上から春到来を宣言し、次いで、そら出番だわ!とソメイヨシノや枝垂れ桜が公園全体で咲き誇ります。
秘密の場所から美術館を眺望すると、妙齢の貴婦人が美しい花霞の衣を足元に羽織って横たわる-かのような当館の姿を拝むことができて、ややっ!優美なりと詠嘆します。小林古径作の髪を梳く姉君が横臥するとこんな感じかも-と第三者には理解不能な心のときめきを覚え、夢想至福の時間に心身を没入。村上春樹ワールド的な幻想です。
そしてまた、レンギョウやユキヤナギ、紫や朱の数種のツツジ達も次々に競演に参加すると、公園中程の小川法面に隊
列をなすリラの花群は優雅な香りを風に乗せ始めます。これら花々との会話が深まると、ふとその時々の課題解決のヒントが浮かび上がってくることもあり、ふむ、深沢紅子さんと中津川河畔の忘れな草などもそうかなと、素人なりに想見してみたりします。
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ゴージャス!盛南地域のお花見スポットです。
さて、この時期になると、ハクチョウはもう北国に帰り、空高く優麗に飛翔する姿を見ることもなくなりますが、例えば、冬鳥のツグミは冬の間ほとんど独り身で過ごしていたのに、次第につがいで草上の採餌行動をとりはじめ、更には芝生の上で集団となり、皆で一様に同じ方向をみて日向ぼっこをするようになります。サボっているわけではありませんが、これは館長室からもよく観察できます。最終的には皆が編隊を組んでシベリアを目指して飛び立つようです。
冬鳥としてはジョウビタキを稀にみることがあり、これが実にめんこい! 掌に収まりそうな小さな体にクリクリのまん丸瞳で-ピョコリとお辞儀をするのです。注意力散漫な私の視界に止まることは滅多になく、知らぬ間にバイカル湖辺りに帰っていくらしいです。
お辞儀はしないけれどもつぶらな瞳でじっとこちらの眸を覗き見るニホンリスの姿は、徐々に背丈を伸ばす草々や木の葉に隠れて発見しにくくなります。当人はきっと安堵しているのでしょうが、逆に人間側のバードウォッチングなどは成果を上げにくくなります。以上は野鳥の会会員談。
そんな中、ついこの間、ワシタカ科のカッコいい若鳥(多分)が上空を高速で滑空していくのに遭遇しました。あれ、チョウゲンボウじゃないかなと一寸感動。トビみたいにのんびりと弧を描いたりせずにスピード飛行。モグラやジネズミの堀穴も見えにくくなり、採餌が難しくて焦っていたのかもしれません。まぁ頑張れよと激励。
花々も野生動物もみな、「私もワタシも!」と一斉に生命活動を活発化させるこの春、美術館で芸術ゴコロを研ぎ澄まし、かつ堪能した後には陽光の下で周辺を散策し、ひと足ごとの自然界との出会いを楽しんでみてはいかがでしょう。心理的にも生理的にも効果てきめんと思います。世事が由来の毒素も抜けていきます。なんて。
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ユキヤナギの側でツグミが餌をついばみ、上空をチョウゲンボウが滑空していきました