vol.80 石頭について
館長 藁谷 収 (わらがい おさむ)
2017.6
彫刻制作に無くてはならない道具の中に、鑿(のみ)とハンマーがあります。取り分け、石彫においては長い歴史の中で素材の違いによって工夫された物が存在します。日本の石彫は石垣などの文化があり、主に花崗岩を用いることが多く見られ、それに即した道具のあり方があります。鑿(のみ)は石の硬さによって焼き入れを調整し、この作業が制作に大きく関わってきます。市販されている鑿(のみ)もあります。ハンマーは石頭と言い、柄は牛殺しの木、グミの木、枇杷の木などが使われ、硬くてねばりのあるものを用います。この石頭は、焼きの入った槌に曲がった柄がついたもので、大きく振り上げ鑿(のみ)の頭にヒットするよう角度が工夫されています。この柄を曲げて作る技術は、彫刻家それぞれに違い、長さや曲げ具合を自分で調整することになります。勿論自作であり、道具屋に売っているものではありません。一方、大理石の文化のイタリアなどではTハンマーが主で、力で押し叩く様な感じに思われます。日本と同じように角度を調整することで槌の部分で逆円錐形に加工されたものがあります。大理石は非常にデリケートな素材で、鑿(のみ)の衝撃を吸収する様に槌に焼きを入れない工夫がされているのもあります。ミケランジェロの生涯を描いた映画「華麗なる劇場」の彫刻制作場面で、チャールトン・ヘストンが演じるミケランジェロが持っているハンマーに焼きの入っていない凹みのある箇所が映っています。細かい考証に頷いています。
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※新美術新聞2月1日号に掲載したものの再掲です。