Vol.99 初めて観覧券を買ったあの日から
総務課 常勤契約職員 石川巧也
2021.03
自分のお金で岩手県立美術館の観覧券を買ったのは大学生の頃だった。
盛岡駅の西側が気になってとにかく西へ向かって歩いた。季節は夏だった。
20分ほど歩くと、広い公園が見えてきてなんだか楽しそうな場所だと思った。
歩いている途中で犬を連れて散歩している人や公園で遊んでいる子ども達を見かけた。
そして案内看板を見つけると、近くに美術館があることを知った。「こんなところにあるんだ。」駅からのアクセスが意外と良いことに驚いた。
館内に入ると、とにかく天井が高く、入口から大階段までの距離が長くて圧倒された。そしてどこで入館料を払ったらいいのか分からなくて、急に緊張した。
とりあえず受付に行ってお金を払おう。こういった静かでマナーが大切とされる場所に慣れていなかったのですごく焦った。
「大人1枚ください。」と言って観覧券を買った。今思うと大雑把な伝え方だと思う。正しくは、大人ではなく「一般」である。
さらに補足すると、学生の区分もあるので学生証を提示して購入すれば良かったのだ。後で分かったのだが、展示室への入場には観覧券が必要になるが、それ以外の場所に立ち寄るぐらいならお金はかからない。今となってはいい社会勉強になったと思う。
その日からだいぶ時間がたった。そして美術館で働かせてもらえる機会に恵まれ、今はそこで仕事をしている。
働いてみて、初めて知ることが多かった。特にマナーに関することだ。ただ静かにすればいいのではない。他の文化施設にはない美術作品に対して注意を払うことが重要な考え方だと思う。
私が知らなかった美術館でのマナーや常識とされていることを少し紹介させていただく。「館内への植物、虫の持ち込み禁止」、「展示室内へのボールペン、シャープペンシルの持ち込みの禁止」である。
植物や虫の持ち込みが禁止されているのは、作品に悪影響を及ぼす可能性があるからだ。植物は一見関係なさそうに思えるが、花や葉っぱの中に虫が隠れているかもしれない。
ボールペン、シャープペンシルの持ち込みを禁止している理由は、インクが万が一作品に飛び散った際に修復が困難であるからだ。あるいは修復出来ない場合もあるかもしれない。シャープペンシルがダメな理由は、ボールペンと区別がつきにくい点と、芯が折れて飛んでいった際に作品を傷つけかねないからだ。補足として展示室内でメモをとる際には、鉛筆かペグシルを使用していただいている。
少し話が美術館からそれるが、マナーの面でほかの施設と比較するとおもしろいかもしれない。例えば、なぜ映画館では録画や録音はダメなのか。なぜ動物園や水族館ではフラッシュ撮影を禁止しているところがあるのか。など許可していない理由を考えるとその施設が何を大切にしているのか、何を気にかけているのかに気付かされる。
今年で岩手県立美術館は20周年を迎える。本当におめでとう。人間で考えたら成人である。今この施設で働く職員で20歳以下の人はいないだろう。私も20歳以下ではない。近い将来岩手県立美術館は長い歴史のある建物として誰かに説明されたり、紹介されたりするだろう。その時を想像すると誇らしくもあり、少し笑いそうになる。なぜなら、古くからの友人が今も元気に生活しているのを知った時の感情に似ているからだ。
そして、これから何十年先も建物が無事のままで、多くの人達を迎え入れて欲しいと思う。
今までに購入した観覧券