岩手県立美術館

Vol.116 川端龍子展を終えて

学芸普及課 上席専門学芸員 加藤俊明

 2024.09

 美術館で仕事をする喜びの一つは、開館前の誰もいない展示室で、作品に囲まれる時間を持てることです。作品と間近に接することで、新たな発見をすることもあります。
 6月から7月にかけて、美術館では川端龍子展が開催されました。
 和歌山に生まれた川端龍子(1885-1965)は、洋画家として出発しますが、1914年に日本画へ転向、再興日本美術院展(院展)や自ら立ち上げた美術団体「青龍社」などで活躍しました。
彼の作品の特色は、そのスケールの大きさと大胆な画面構成です。
 「自分の制作を、展覧会上の壁面で見せる以上、それは特定の少数者のためにではなく、広く大衆にうったえるべきである」と唱えて会場芸術の理念を実践した龍子は、日本画の常識を超える巨大なスケールの作品を次々に発表し、世間を驚かせました。
 今回の展覧会でも、彼の中期の代表作《香炉峰》をはじめとする、高さ2メートル、幅7メートル以上にも及ぶ大作がいくつも出品されました。
 これほど巨大な作品を展示したことはこの美術館でもめったになく、天井高5メートル以上ある展示室の大空間にも見劣りすることなく、その威容がお客様の前に披露されました。
 画集等で見慣れてはいましたが、作品のスケール感は、直に作品に触れないことには味わえないものです。実作に備わる迫力には、私自身も圧倒され、大きさそれ自体が作品の魅力につながることもあると改めて気づかされました。
 龍子作品のもう一つの特徴が、個性的な主題と大胆な画面構成です。竜巻に吸い上げられ空から落ちてくる海の魚たち、大空を飛びながらも機体の背後が透けて見える飛行機、中国大陸に渡りラクダとともに描かれる源義経の像など、一度見たら忘れられない情景が展開されました。
 龍子の大胆な作風は、従来の日本画の伝統美に収まるものではありませんでした。近年彼の作品は、デザインや現代美術など他分野からも注目を浴びています。展覧会担当者である私も「川端龍子という作家は日本画という枠組みで収まる人ではない」と考え、ポスターやチラシを印刷する際にも、これまで日本画に縁のなかった方にも龍子に関心を持ってもらうため、従来の日本画では見られなかったポップな感じにデザインしてもらいました。
 あふれる個性というものは、時代やジャンルを問わず人を引きつける力を持ちます。世の中にはまだまだすごい作品があふれている、と痛感した展覧会でした。

龍子展会場風景。大画面に展開される龍子作品の迫力は、実物を前にしなければ味わえないでしょう。

龍子展会場風景。大画面に展開される龍子作品の迫力は、実物を前にしなければ味わえないでしょう。

 

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)