Vol.103 美術館コレクションの魅力
学芸普及課 主任専門学芸員 盛本直美
2022.01
みなさんが美術館を訪れるきっかけというのは、いわゆる「企画展」(自館のコレクション作品ではなく、あるテーマに沿って、国内外の他の美術館から借りた作品を、限られた期間内で展示する展覧会)が多いのではないかと思います。実は岩手県立美術館では、この企画展の観覧券で、美術館の所蔵作品を公開する「コレクション展」もご覧いただけるということをご存じでしょうか。
その規模にもよりますが、日本全国にある美術館の多くは、企画展だけではなく、「コレクション展」、あるいは「常設展」を開催しています。そしてそこでは、多かれ少なかれ、郷土ゆかりの作家の作品を見ることができます。当館のコレクションは、主にこの「郷土ゆかりの作家」たちの作品で成り立っています。その代表格で、当館が誇る御三家といえば、萬鐵五郎、松本竣介、舟越保武ですが、この3作家以外にも、105名(2022年1月現在)もの県ゆかりの作家の作品を収蔵しており、2階展示室で「コレクション展」として、年に4回の展示替えを行い公開しています。
話は飛びますが、私がまだ学生のときのこと、恩師に、「イタリアの各都市を訪れた際には、その街にある一番大きな教会に行きなさい」という教えを受けたことがあります。これは何も旅の無事を祈りなさいといった宗教的な意味ではなく、教会はその街を知るのにかかせない場所だからです。イタリアの教会は、建築自体が素晴らしいのはもちろん、その内部は、絵画や彫刻など多くの芸術作品で装飾されています。なかでも街で一番大きな教会は、その街のシンボルであり、人々が集まる重要な建物であるために、建設・改修された当時、その地方で最も優秀で有名な美術家が腕をふるいました。つまり地元の人々にとって、街一番の教会とは、宗教的な魂の拠り所であるとともに、故郷の芸術がいかに素晴らしいかを示す、お国自慢の場所でもあるのです。一方で、街の外から来た私たちにとっては、その街で最も優れた芸術を一度にたくさん見ることができるというだけではなく、ある時代に、この地方でどのような芸術家が活躍していたのか、またどのような地域と影響関係にあったのか、さらには設置された作品のテーマや登場人物を知ることで、町の重要人物や歴史をも理解することができるという、とても便利(?)で重要な場所なのです。
教会はあくまで宗教施設であり、その意味では、現代の美術館とは違いますが、私は、美術館も、街が誇るべき文化の中心地として、地域の人々が集まる場所になって欲しいと思っています。美術館のコレクション、特に郷土作家の作品は、その街が生み育て、今なお街の人々が大切にしている宝物であり、地域の歴史や風土を知る縁となるものだからです。現在開催中のコレクション展第4期では、「北斗会」という、県出身作家による在京の美術団体についての特集展示を行っています。美術を志す若者たちが、東京で郷里を思いつつ集い、互いに切磋琢磨しながら制作した作品の数々は、改めて岩手の芸術や文化を知るヒントになるかもしれません。みなさま、旅行などで地方を訪れた際には、その土地の美術館の「企画展」に関心がなくとも、「コレクション展」を目指して、足を運んでみてください。