岩手県立美術館

vol.71 「いま、被災地から -岩手・宮城・福島の美術と震災復興」展

専門学芸員 盛本直美
2016.5 

 東日本大震災から今年で5年。「いま、被災地から-岩手・宮城・福島の美術と震災復興」展とは、5月17日から、東京藝術大学大学美術館で、開催されている展覧会。全国美術館会議と東京藝術大学、そして岩手、宮城、福島の三県の県立美術館が主催となったこの展覧会は、第一部で、三県を代表する郷土作家たちの作品を展示し、第二部では、津波によって甚大な被害をうけた東北地方沿岸部の美術館や博物館の被災美術品を救出した「文化財レスキュー」の概要を、実際の作品を展示しつつご紹介するものだ。
 第一部でご紹介する、岩手県を代表する作家は、萬鐵五郎、松本竣介、舟越保武はもちろん、吉川保正や橋本八百二、澤田哲郎、白石隆一など、岩手の美術を語る上で欠かせない作家、郷土の風土を描いた画家、あるいは全国的にはあまり知名度は高くないけれど、この機会にぜひ東京で紹介したい作家など18人。
 展覧会の準備段階で、それぞれの地域が大切にしている作家たちの作品を三県でつきあわせてみると、新たな発見があった。ひとつには、三県をまたいで活動している作家の存在である。例えば昨年当館で展覧会を開催した松田松雄。陸前高田市出身ながら、画家としての活動の場は、主にいわき市であった松田の本展出品作品は、いわき市立美術館所蔵のもの。また前衛彫刻の草分け、昆野恆は仙台市出身であるが、本籍地が山田町ということで当館の所蔵作家でもある。そして、三県の美術館がともに所蔵している作家には、村上善男や松本竣介(松本については、岩手県だけではなく東北を代表する画家と見なされていることが理由のひとつであるが)がいる。松本作品は、当館所蔵の《岩手山》や《盛岡風景》といった岩手の風景を描いた小品に加えて、宮城県美術館からは、代表作《画家の像》が出品されている。
 また、これは多分に私の勉強不足のゆえだが、「東北にはこんな作家もいたのか」という作家や作品に出会えたことも、大きな収穫のひとつであった。例えば、宮城県代表の金子吉彌と大沼かねよ夫妻。大沼は栗原市の生まれで、東京女子高等師範学校を卒業し、岩手県の旧水沢高等女学校で勤務した後に再上京し、活躍した画家である。彼らは当館の所蔵作家である橋本八百二とほぼ同年代で、1920年代後半から30年代にかけて、やはり労働者をテーマにした作品を手がけているが、今回の展覧会では、この三人による大作を並べて展示している。その他、舟越保武と佐藤忠良など、三県を代表する作家たちの競演を見ることのできるこの貴重な機会に、東北という風土が生んだ傑作の数々をご覧いただきたい。
 さて、この展覧会のもうひとつの見どころは、東北地方で行われた「文化財レスキュー」の概要と、救出された後、修復を経てよみがえった美術作品をご紹介する第二部である。当館では、震災の翌年、2012年度に常設展第4期の特別展示、「救出された絵画たち-陸前高田市立博物館コレクションから-」として、応急処置後、当館に保管されている陸前高田市立博物館の所蔵作品の展示を行った。今回の展覧会で紹介されているのは、現在、東京国立博物館と岩手県立博物館敷地内の仮設修復施設(2014年5月設置)で行われている保存修復作業を終えた作品の一部である。
 「文化財の残らない復興は本当の復興ではない。」とは、陸前高田市立博物館の方の言葉である。陸前高田市立博物館は、今年1月に認定された、同市のまちなか再生計画により、 復興のまちづくりの中心となる区域内に再建が予定され、今年度から基本構想策定が動き出しているという。復興への道のりはまだまだ遠いが、再生に向かって少しずつ歩き出していることも確かである。
 東北の玄関口、上野で開催される東北をテーマとした展覧会。お近くにお寄りの際には、ぜひ足を運んでいただきたい。

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)