岩手県立美術館

vol.64 アート・シネマの舞台裏

主任専門学芸調査員 田村敏之 
2015.10 

 岩手県立美術館には鑑賞無料・事前申し込み不要の館内上映イベント「アート・シネマ」があります。昨年から担当を引き継いだものの、映画についての専門的な知識を持ち合わせていない私が作品探しの段階からどうやって上映までこぎつけているのか、その舞台裏をご紹介したいと思います。

 もともと美術館開館当時の映像企画はアーティストの制作ライブ映像や映像アート作品を紹介する上映プログラムが中心でした。そこから「アート・シネマ」という名称とともに、ドラマやドキュメンタリー作品など映画作品を主とした上映内容に移り変わってきました。美術館での上映ですから、展覧会やアート関連の作品の上映が理想的なのですが、なかなか簡単にはいきません。例えばピカソやゴッホにまつわるエピソードが良く知られているように、彼らをテーマにした映像作品は数本ありますが、実際には芸術家をテーマにした映像作品はごくわずかです。今年度はゴーギャンを題材にした作品上映を企画したものの、上映権の関係で上映がかないませんでした。候補と考えていても、上映許可を得られる作品割合の方が少ないようにも思います。作品の舞台や時代の関連性で候補作品を広げていくと上映意図がぼやけてしまうこともあり、上映にかかる経費も考えて断念したものもあります。上映スケジュールが空いてしまう月には、変化をつけるためにドラマ作品やドキュメンタリーを組んだりもします。
 こうして、上映意図、映像著作権と経費の問題をクリアして、晴れて正式にスケジュールに紹介できるというわけです。視聴後のアンケートでリクエストいただいた内容も参考にしておりますが、必ずしも応じられていない理由についてご理解いただければと思います。
 一方、「アート・シネマ」のスペシャル版・無声映画/弁士伴奏付き作品の無料上映は当館にとってもビッグイベントです。今年度も第4回目として実施することが出来ました。今回は企画展<谷中安規展>の関連イベントとして、映画好きの画家が1930年代に観たであろう作品を、街のシネマの雰囲気で体験できるという贅沢な企画です。現在、弁士伴奏付き映画の上演を体験できる機会は貴重で、おまけに伴奏者はテレビでもおなじみの新垣さんということもあって当日は椅子の在庫を出し切っても立ち見が出るほどの大盛況。上映と展覧会のコラボレーションを楽しんでいただけたのではないかと思います。
 ただ今、来年度のアート・シネマとして、展覧会との関連性を持たせつつ、今年以上に充実した上映ラインナップを構想中です。映画が主役になるような催しも予定されておりますので、どうぞご期待ください。

上映開始前。待ち受けや画面切り替えを確認します。

開場後、少しずつ席が埋まって上映を待ちます。

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)