岩手県立美術館

vol.60 作品の楽しみ方(案)

専門学芸員 盛本直美 
2015.6 

美術館で開催される展覧会には、ざっくり大きく分けると、ふたつの種類があります。ひとりの作家の作品のみを展示する個展形式のものと、複数の作家作品を展示するもの。後者には、ある美術館のコレクションや、ある流派の作品、あるテーマに沿った作品、あるいはある時代の作品を集めた展覧会など、様々なものが考えられるでしょう。
 現在開催中の「ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち」展もまた、複数の作家の作品をご紹介する展覧会。ゴーギャンがはじめて、フランス、ブルターニュ地方のポン=タヴァン村を訪れた1886年から、以後帰国することのないタヒチへの旅へと向かう1895年まで、主に約10年間の間に、ブルターニュにおいて制作された、ゴーギャンと、その周辺の画家たち-ゴーギャンに影響を与え、またゴーギャンから影響を受けた作家たち-の作品を見ていただく、まさに時代を切り取る展覧会です。
 本展でご紹介するゴーギャンの作品は、みなさんがゴーギャンと聞いて思い浮かべる南国をテーマにした作品とは少し違い、「前ゴーギャン」と言うべき作品。例えば、《ブルターニュの眺め》は、筆触こそまだ印象派の影響が残っているものの、描く対象を平面的に把握しようとする志向を見ることのできる作品で、彼がブルターニュの地で生み出した、新しい芸術への過渡期の作例と言えます。ゴーギャンの画業の中では、少し特異な作品にみえるかもしれませんが、展覧会会場で、同時代の仲間たちが制作した作品と並べて見ることで、新たな発見があり、数年前に国内で開催された、ゴーギャンの大回顧展とはまた違った楽しみ方ができることと思います。
 ここまで書いていて、ふと、私が日頃、当館の萬鐵五郎展示室について考えていることを思い出しました。当館所蔵の萬作品は、基本的には、彼専用の特別室である「萬鐵五郎展示室」のみでご紹介していますが、そこでは、当然ながら萬さんの作品のみを、主に時系列で展示しています。これは、お客様がいつ当館に来館されても、まとまった数の萬作品をご覧いただくことができるという点で重要なメリットといえます。一方で、他の美術館の展覧会などで、他作品と並べて萬作品を見たときの新鮮な感覚を、当館の萬展示室で味わうことができないのは少し残念だとも思っています。だって、同時代作品と並べて展示されているとき、萬さんの作品は、遠くから見ても、そこだけ「ピカッ」と光っているように見えるのです(いや、ほんとに。ちょっと身びいき気味かもしれないけれど・・・)。つまり、近代美術の流れの中で他作品と並べて萬の作品を見たときに、彼の画風がいかに斬新だったか、同時代作品に比べていかに特異であったか、よく分かるのです。もちろん当館でも、展示テーマによっては、萬さんがご自分のお部屋を出て、他の場所に寄っていかれる(?)こともあります。そういった機会には、通常とは少し異なった萬作品の魅力をお楽しみいただけることと思います。
個々の作品自体に向き合って、その魅力を堪能することはもちろん重要ですが、画家の生きた時代を知り、その周辺で活動していた作家やその作品を通して、改めて作品の良さを味わうというのもいいものです。

「ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち」会場風景

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)