岩手県立美術館

vol.14 油絵体験講座を担当して

 主任専門学芸調査員 杉本聡
 2011.7

油絵体験講座の制作風景

 今年度の油絵体験講座の第1回目が、先日終了しました。この講座は、受講希望の方が多く、毎回抽選を行っています。そのたび、抽選に外れた多くの方々に、申し訳なさを感じずにはいられません。

 東日本大震災に伴い、全ての事業が、というより美術館そのもののあり方を根底から問い直す機会を与えられました。結果として、油絵体験講座は、今年度は3回行なうことにしました(これまでは、年に2回の開催)。

 さて、このような状況の中、この講座の開催にあたり、担当者の小職としてはいつも悩みます。「どんな内容で、何を描こうか」「参加される方々の ニーズとはなんだろうか」「そもそも、美術館で油絵体験を行なう意味とはなんだろうか(美術館でなくてもこのような機会はいくらでもあるのではないか)」 などなど・・・。

そんな悩みを抱えつつも、小職自身も油絵は大好きです。見ることも描くことも大好きです。そこで、油絵について思いつくまま、勝手なおしゃべりをしながら、これまでやってきた、あるいはこれからやろうとしている油絵体験講座の言い訳的、小職の思いを語れたらなあと思います。
日本人にとっての油絵のイメージや人気の高い絵は、印象派やその周辺の絵画であると言われます。印象派の絵が最も油絵らしい油絵と感じているのだと思います。この頃の時代は、油絵具も改良され、携帯して戸外で制作できるようになりました。戸外での制作は、刻々と変化する光の状態をすばやくとらえ、一気に制作しなければなりません。筆のタッチも大胆です。そういえば、小さい頃に、「絵は少し離れて見るもの」と教わったことを記憶しています。近くで見るといろんな色が無造作に塗られているよう見えるが、それが少し離れることで、光の指している美しい風景に見えた感動を覚えています。まさに印象派の絵だったのです。そんな印象派のような絵を自分も描きたいと、中学生の頃は思っていました。
最近とても気になる美術館を見つけました。千葉県にある「ホキ美術館」です。この美術館は、昨年開館した日本初の写実絵画の作品だけを集めた美術館です(まだ、行ったことがないのでぜひ行って見たいと思っています)。写実絵画を平たくいうと、見たものを本物そっくりに描いた絵画ということでしょうか。しかし、写実絵画の追及は単に本物そっくりの次元を超えているように感じます。独自の絵画的世界がそこにはあります。
油絵具という絵具は、印象派のような描き方も、写実のような描き方も、あるいはまた違った描き方もいろいろ自由にできる絵具だと思います。しかし、油絵具の特徴を最大限に生かそうと思ったとき、それは、写実的な描き方がいいのではないかと個人的には思っています。それは、一言でいうと塗り重ねの効果ということです。不透明色と透明色が溶き油を介して何層にも重なる表現ができるのです。この表現は、人間が空気という透明な層を介して物を見ることと同じ原理をキャンバス上で再現していることになります。油絵具が作られたルネッサンスから印象派の前までの画家たちは、このような方法で多くの名画を残しています。
この油絵体験講座では、この油絵具が作られた頃の原点に立った体験が出来たらいいのではないかと、ぼんやり考えているところです。

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)