岩手県立美術館

vol.13 「アートデオヤコ」外へ出る。

 専門学芸調査員 三田聡子
2011.6

アートデオヤコ 「ユメノマチ」ができるまで 陸前高田市での活動の様子

 3.11に震災が起きて、3ヶ月になろうとしている。この時間を長かったと感じるか、もう3ヶ月?と感じるかは、置かれている状況で感じ方も違うだろう。私にとっては、とても長く、また今後も長く感じるんだろうな、という気がしている。

 3月後半、私は焦っていた。とにかく「沿岸の地域で何かできることはないのか」という考えが頭の中でぐるぐると回っていた。大船渡に5年間住んでいたこともあり、今すぐにでも飛んでいきたい!と、何度思ったことか。いやいや、今行ったら邪魔になるだけ、それより今後長い見通しでできることを考えよう。頭の中でこんなやりとりを繰り返していた。そう考えていたのは、私だけではないと思う。

 そんな中で、美術館として今後何ができるのか、検討が始まった。今まで、何度会議を重ねただろう。とにかくみんなで頭を突き合わせていた。現地で活動したい。少しでも多くの人と美術館が触れ合うような場面を作りたい。今は大変な時だけど、いずれは手を動かすことやそうやって作り出された作品たちが 人の心に必要になるはず。そんな思いで、今年度、教育普及班は被災地での活動を行っていくことに決定した。

 4月27日、陸前高田市、大船渡市の視察を行った。以前私が住んでいたところにまで津波は押し寄せていた。よく知っていた町は、本当に壊滅していた。なんとここまでぐちゃぐちゃになったものか。特にも陸前高田は一面こげ茶色。色彩が消えていた。改めて自然の脅威を感じ、同じ岩手にいるのにこんなに も状況に差があるのだということに愕然とした。しかし、道路にあった瓦礫は撤去され、日を追うごとにどんどん片付いていっている。自然も凄いけど、人間の 生きる力もやはり凄いんだなあと、つくづく思う。また視察の先々では逆に美術館からたくさん仕掛けていってほしいと応援され、ここに住んできた人達の気丈な強さを感じさせられた。

帰り道、私たちはできることから難しく考えずフットワーク軽くやっていこう、今美術館でやっているコトをとにかく現地でやってみよう、ということ を確認し、翌日には陸前高田での「アートデオヤコ」を開催することを決めた。考えてばかりでは進まない。動けるところから動こう、動きながら考えよう。そして、細々と地味にでもこの活動を続けていこう。そうしていくことが、美術館として被災した方たちに寄り添う第一歩になるのではないか。
しかし、こういう考え方は、私の心の中ではすぐに揺らぐし、いつまでたっても確信は持てない。波のように気持ちが高まったり、「いや、意味があるのか…?」と沈んだり。きっと確信が持てるとしたら、この活動を続けた先に復興したマチが見え、本当の意味での「普通の生活」が全ての人に戻った時なのだろう。
そんなことをうじうじと考えつつ、5月21日、22日のワークショップ。実際、陸前高田市でのアートデオヤコ「『ユメノマチ』ができるまで」は、 大盛況だった。場所が違っても、状況が違っても、その時その場所に集まった子どもたちや大人のみなさんは通常と変わらなかった。むしろ、子どもたちはパワ フルで、できたものは大きく堂々としていた。始まってしまえば、私たち職員も、通常通り。カラフルなつみきを道具に、子どもたちや周りのみなさんとコミュニケーションをとることができた。子どもたちはかなり頭と手を使っていた様子で、出来た瞬間のキラキラした笑顔が印象的だった。最後、ある子に「今度はいつきてくれるの?」と言われ、「これから色んな所を周るんだよ」と答えたら、「周り終わったら、最後にもう一度ここに来て!」と言われた。
私の心は揺らぐ。今も、この先も揺れ動き続けると思う。でも揺るがないことは、どういう形ででも地域とのやり取りを「続けていくこと」。そうじゃないと、意味がない。「こういう形じゃないかもしれない…けど、きっと必ず来るよ!」そう言って、その子とは別れた。現実、岩手県は広い。被災地発進ではあるが、被災地だけ周ればいい、ということでもない。時間はかかると思う。しかし今はこんな状況だからいろんな人たちが美術を介した活動をしているが、これが5年後、10年後はどうだろう。県立の美術館としてやらなければいけないことはそういうことなのではないか。
県立美術館は今年で10年。「アートデオヤコ」は開館時から現在まで続けてきたロング事業だ。現在多くのリピーターの方々に応援していただいている。今回、美術館と地域をつなぐトップバッターとして陸前高田で「アートデオヤコ」を実施し、そこにいる子どもたち、大人たちのキラキラ笑顔を見ることができた。もちろん「アートデオヤコ」の目的は「作品を作る」ということだけではない。素材を前にして能動的に考え経験していくこと、周囲とコミュニケーション をとりながら解決していくその行いが生きていく力につながる。いろんな美術や美術館への入り方がある中で、子どもたちのファーストミュージアムがそういう形でもいいのではないか。いつの日か、大人になった子どもたちが「アートデオヤコ」を思い出して、美術館に来てくれたらいい。そして将来、美術作品を前にして自ら考えることや、美術館自体がその子の生涯の友になってくれればいい。そういう人がいろんな地域にたくさん増えればいい、と揺らぐ心を持ちつつも、大きく夢見ているのである。

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)