岩手県立美術館

vol.11 大災害と美術館

 学芸普及課長 大野正勝
2011.4

 平成23年3月11日の地震と津波による未曾有の大災害。映像でしか知らない戦後の市街地のように街がまるごと無くなってしまったような光景。にわかには信じ難い。さらに福島県では追い討ちをかけるように原発事故による放射線被害も甚大なものになっている。寒さに震える被災地の方々は、温かな食事と安全な仮設住宅、正しい情報と治安、今後の見通しを必要としている。そして多くの人たちが、不幸にも亡くなったり行方不明になってしまった肉親や知人に対する気持ちとどのように向き合ったらいいのか、簡単には分からない辛い状況にある。

多数の犠牲者や被災者が出てしまったこの苦難のなかで、美術や美術館ができることは何か、そんな問いかけが各地で始まっているが、この惨状の前では今は正直なところ場違いな感じがしてならない。当館は震災復興支援に23年度の企画展予算を全て回すことになり、一年間の全ての企画展が中止となってしまった。企画展が開催されなければ来館者はほとんど見込めない。もっとも、このような時にこれまでのような企画展を開催できたとしても、展覧会開催に対する県民の方々の受け取り方や感じ方は平常時とは違い、また置かれた立場によって様々であろう。でも黙っていてはいけない。ここは、美術館活動を行う側のいつものあり様を少し省みて、この一年間、県立の当館は何をすべきなのか考えたい。
この災害で不幸にも亡くなられたり被災された方々に対する悲しみの気持ちや、何かしてあげられることはないだろうかという気持ちをたくさんの方々が持っている。美術館は、そうした方たちに集まってもらって、小さなコンサートだったり、短い講演だったり、映画だったり、企画展示室を使った手弁当的な展覧会だったり、思いのこもった一つひとつの何かを、一人でも多くの人たちと共有できたらいいのではないか。絶望と悲しみの只中にいる方々が数多くいらっしゃる今、この美術館でやれることのなかにも「微かな希望や力は残されているよ」って勇気づけられるものがあるかも知れない。
県立美術館では、そんな歌やメッセージ、展示やその他いろいろなことを通じて、今だからこそ、多くの県民の方々がつながることができたらと思う。もしそこで、ご支援の志をいただけたのなら、それはまた尊いことだと思う。
災害で亡くなられた方々へのお悔みと被災された方々へのお見舞いを心から申し上げます。

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)