vol.49 展示室という空間
専門学芸員 盛本 直美
2014.07
企画展示室
当館に、複数回ご来館いただいているお客様はお気づきのことと思いますが、岩手県立美術館の企画展示室は、いわゆる「ホワイトキューブ」と呼ばれる、真四角の大きなひとつの空間です。それって普通のことじゃないの、と言われるお客様、これまで訪れたほかの美術館の展示室を思い出してください。
たとえば東京の原美術館は、個人の邸宅を美術館として活用しているもので、館内には、大小様々な大きさの独立した展示室がいくつかあります。同館では、部屋に合わせて制作された作品を所蔵しているほか、建築物の特色を活かした個性的な展覧会が開催されています。
一方、当館の展示室は、あらゆるタイプの作品に対応できるニュートラルな空間として作られたもので、そこで活躍するのが可動壁、文字通り展示室内を「動く壁」です。当館には、23枚の可動壁とボックス型可動壁がありますが、それらを使って、ひとつの空間を仕切り、それぞれの企画展覧会に合った展示空間をつくるのです。展示室の天井を見る機会なんてそんなにはないでしょうが、ぜひ一度見上げてみてください。天井に、可動壁を動かすためのレールがあるのがお分かりになると思います。
昨年度開催された「東島毅+本田健展」のような、大型作品が出品された現代作家の展覧会では、この可動壁はあまり使わず、当館の広々とした空間を活かした展示をご覧いただきました。また、現在開催中の「ジョルジョ・デ・キリコ展」では、単純に作品を年代順に見ていただくだけではなく、描かれたモチーフやテーマの比較をしていただくことも重要なポイントとなっています。そのために、5つある章の区切りは比較的緩やかで、各章を厳密に仕切るような壁をあまり使っていません。ちなみに展示室中央のスペースは、可動壁が入らない最も大きいスペース、言い換えると「特等席」で、「デ・キリコ展」では、展覧会の中心となる「新形而上絵画」の作品を展示しています。
一方で、21年度に開催した「蜷川実花展」では、作家がこれまで手がけてきたテーマを8つに分けてご紹介しましたが、各テーマのもつ世界観を大切にするため、可動壁だけではなく、仮設壁も設置したほか、先ほどお話した、いわゆる「特等席」をあえてデッドスペースとして、完全に独立した8つの部屋を巡りながら作品を見ていただくという構成にしました。