vol.42 バックヤードのお話
主任専門学芸員 濱淵真弓
2013.12
「うわあ、すごく新しくてきれいねえ!」
「そうですね、建って10年しかたってないですから。」
「そうじゃなくて、昨日建ったばかりみたい!」
これは、数年前、ドイツから来た学芸員が、当館のバックヤード(建物の裏方エリア)を見てもらした言葉です。ヨーロッパには歴史のある美術館がたくさんあり、それに比べたら当館の10年なんて赤ちゃんの年齢くらいなもの。ですが、10年も使ってこのバックヤードのこぎれいさは、当館を訪れた国内外の学芸員が大概びっくりされます。
てくてくツアーの様子
来館者にご利用いただく展示室やロビーなどのパブリックスペースでは細心の注意を払って清掃、整理を心がけますが、美術館のバックヤードについてはどうでしょうか。増えがちな備品類や日常使用する資材のストックなど、保管場所の確保や整理に困っている美術館も多いようです。
当館では、バックヤード、特に作品が保管されたり通過するエリアに関して、もともと広めにスペースを取っていますが、さらに、できる限り備品類を倉庫に収納し不要なものは廃棄、壁や床も可能な範囲で補修しながら、広く清潔に保つよう心掛けています。当館の収蔵庫や廊下を見た作家や研究者が「ここを開放して展覧会をしたらどうか」と提案するほど。
また、トラックから搬入した作品が収蔵庫や展示室までスムーズな動線をたどる建物の構造になっているため、作品に悪影響を与える害虫や菌も一緒に入れてしまわないよう注意したり、作品保管に適切な温湿度を保つことも必要になります。年に何回か専門の業者さんに館内の環境チェックをしてもらうことで被害を未然に防ぎ、また24時間空調(収蔵・展示エリア)により温湿度を厳密に管理して、作品にとって心地よい状態を保っています。
このように、バックヤードを広く清潔に保ち、作品が快適に過せる環境を10年以上守ってきましたが、それは学芸員だけでなく、総務スタッフや機械監視スタッフ、そして清掃スタッフなど、さまざまなプロの日々の努力のたまものと言えます。そんなことは当然だと思って長い間過ごしてきましたが、他館の学芸員や関係者の言葉で改めて気付かされました。
こういった普段ご覧いただけないエリアも含めて館内散歩する「てくてくツアー」。以前このコーナーでも紹介いたしましたが、当館スタッフがグランド・ギャラリー、展示室から収蔵エリアまでみなさまをご案内するイベントです。たった30分ですが、美術館の建物の見どころや秘密がぎゅぎゅっと詰まった充実のツアー、是非一度ご参加ください。