岩手県立美術館

vol.2 日々雑感

 主任専門学芸員 加藤俊明
2010.6

閉館後の美術館

 5月16日、盛況だったアルフォンス・ミュシャ展も無事に最終日を迎えた。午後6時、閉館時間になったのを見計らい、美術品の撤去作業を始める。展示中に作品が傷んでいないか。額縁がずれていないか。一点一点チェックが入る。倉庫に保管していた木箱に作品を入れ、その日の作業は終了。時刻は午後11時。外は真っ暗だ。二日後、早朝に搬送用トラックが到着したので、ガレージに入れて作品を積み込む。

 美術館では、外気を遮断する扉が何重にも取り付けられている。荷物をすべてトラックに積み込むまでは、ガレージのシャッターも閉じたままだ。作業が終了し、トラックの扉が閉められてから、ようやくガレージの大きなシャッターを開ける。トラックは東京に向けて出発した。外は日差しがまぶしい。

美術館にいると、時間の経過がわかりにくい。何重にも扉で仕切られた奥の、窓の無い展示室で何時間も作業をしなければならないからだ。館内は空調機を使用して、温湿度が厳重に管理されている。夏も冬も、館内の気温はほとんど変わらない。美術品を保護するための措置ではあるのだが、美術品ってやっぱり外界から隔絶されてるな、と思う。
そういえば昔、美術館は芸術作品の墓所だと言った人がいたっけ。美術館内の作品は、それが生まれた時代や環境から切り離された状態で展示されているからだ。今では美術作品は、生まれた時代どころか、外界からも遮断されたところに保管されている。おまけに閉館後の照明を落とした館内は、確かに墓場じみたイメージだ。
企画展が終わっても、のんびりしてはいられない。今日は取得候補作品集荷の日。美術館が作品を収集するときは、いったん作品を預かってから、年に一度の収集評価委員会の席で、委員の人たちが作品を前にしながら正式に取得するか否かを協議する。今年は集荷にとりかかるのが早い。トラックを手配して、所蔵者の方のお宅まで作品を受け取りに行く。
作業員の人たちが作品をトラックに積み込んでいる間、所蔵者の方が話をしてくれた。良い作品を持っていても、これまでなかなか人に見せる機会がなかった。でも美術館で展示することで、作品を多くの人たちに見てもらえる。作品にとっても良いことだし、作家も喜んでくれるだろう。美術館は墓所ではない、再生の場所として期待してくれる人もいる。
積み込みが終わり、再び美術館に向かう。道中、無数の綿毛が風に舞っていた。やはり建物の中と外は別世界だな、と思う。日が傾き始めた頃、美術館に到着。
収蔵庫に運び込んだら、専用のフックを使ってラックにかけていく。作品の点数が多いので、リストを作る必要がある。タイトルやサイズを確認して、撮影もしておかなければ。自分だけでは手に余る作業だ。誰かの手伝いがほしいが、皆仕事を抱えているので気がとがめる。仕方ない、日を改めて相談するか。

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)