vol.29 展示のこと
主任専門学芸員 加藤俊明
2012.11
学芸員の決めた位置に、作品が1点1点慎重に設置されていきます
常設展の第3期が10月27日から始まりました。
美術館では、常設展示を1年の間に1期から4期までに分け、その都度展示替えを行っています。それまで展示されていた作品を壁から外し、収蔵庫に保管されていた作品と入れ替えるわけです。
展示替え作業に費やす日数は、平均4日間。その間展示室は閉鎖され、作品を運ぶ作業員の人たちが、忙しく行き来します。重くて壊れやすい作品を運ぶのはプロの作業員の人たちの仕事です。一方学芸員は、展示コンセプトをもとにして作品の展示レイアウトを組んでいきます。
作品を展示するとき、年代の古いものから順に並べれば良いというものではありません。作品の寸法や雰囲気を1点1点吟味しながら、時には作品の制作年代をあえて無視して作品の並び順を変えることもあります。そうして、展示空間全体を引き締めていくのです。
注意して見ていくと、学芸員が何をコンセプトに展示していったか、どの作品を一番見せたいかが見えてくるものです。いかに魅力的な展示空間を作るのかが、学芸員の腕の見せ所と言えるでしょう。
注意して見ていくと、学芸員が何をコンセプトに展示していったか、どの作品を一番見せたいかが見えてくるものです。いかに魅力的な展示空間を作るのかが、学芸員の腕の見せ所と言えるでしょう。
良いレイアウトをデザインするには、鋭い感性が必要です。とはいえ、いざ作品を出してみると、いくら並べ変えても代わり映えしないように思えて、頭を抱え込んでしまうことも珍しくありません。「感性は筋肉と同じ。使わずにいると衰える」と聞いたことがあります。学芸員の仕事はデスクワークが多いので、感性が鈍ってしまっているのでしょう。
その一方で、作品の位置が魔法のように一つ一つ決まっていく時があります。そんな時は、ある作品が周囲の空間をどれだけ支配しているか、どの作品が互いに響きあうのか、不思議と頭に入り込んでくるものです。
どういうわけか、展示作業に従事している時よりも、むしろ事務仕事にかかりきりで、長らく展示の現場から離れていた後に、ふとそんな時が訪れる気がします。資料や文書作りというロジカルな仕事に没頭し続けているせいで、右脳が感性を働かせることに飢えているのかもしれません。
どういうわけか、展示作業に従事している時よりも、むしろ事務仕事にかかりきりで、長らく展示の現場から離れていた後に、ふとそんな時が訪れる気がします。資料や文書作りというロジカルな仕事に没頭し続けているせいで、右脳が感性を働かせることに飢えているのかもしれません。