vol.27 アートは遠いもの?
非常勤専門職員 澤村政子
2012.9
大学で講義もされている芸術家の著書の中で、学生たちに話すこととして次のような文章を読んだことがあります。
「たった一度見ただけで作品を好きだの嫌いだなどというのは間違いだ。作品を家に置き、朝な夕なに、その存在自体が日常生活の一部になるくらい身近に置いて、それでもなお嫌いだと言えるかやってみてから判断しなければならない。」
正確な文章ではありませんが、大筋このような内容でした。瞬間“無理でしょ”と思ってしまったのですが、それは、普通共感しなかった作品を身近に置く気にならないのではないかとか、第一名のある作家の作品を家におけるかという根本的な問題があると思ったからです。
一方で、美術館で仕事をしていると、絶えず「身近なアート」という言葉にぶつかります。先日も「子どもが絵を楽しみに来ましたが、こんな顔をしていました。身近なアートをお願いします」というお言葉に、仏頂面の子どものイラストが添えられたものを目にしました。あまりに子どもの表情が良くて、これ自体が身近なアートですけども…と複雑な気持ちで拝見しました。
よく美術館は敷居が高いとか、高尚な展覧会ばかりやっているとかいう話を耳にし残念に感じるのですが、司書である私は芸術に造形が深いとは言えず何も言えません。そのかわり、より一般の方に近い視線で美術館をとらえられると思っています。そこで美術館のライブラリーを展示と来館者をつなぐ、いってみれば「身近なアート」を感じてもらえる場所にしたいと考えています。美術館に足を運んでもらうきっかけになればと、展示に関係する本を紹介したり、簡単なワークショップを企画してきましたが、今回は「気分もUP! ポップアップカードをつくる」ということで、ペーパークラフト作家のやまもとえみこさんを招き、飛び出すカードの仕組みを学びつつ、実際にカードを作りました。参加者の皆さんは真剣そのもの。アートなカードが出来上がっていました。
それにしても「身近なアート」とは何なのかと考えます。楽しいと感じる作品を見ることなのでしょうか。でも、素晴らしいと感じるものは人それぞれ異なりますよね。味わいのある絵や素敵な細工の工芸品は日常の中にもあります。光の反射や水面に映る影、都会の雑多な風景の中にあるアートな部分を感じる感性、それが芸術と言われるものを身近に感じられるか否かの分かれ目なのではとも思うのです。
子どもの頃「嘘でもいいから本物を見ておけ」と親から言われました。多くの子どもと同じように絵や彫刻など見るより、デパートで遊ぶ方が楽しかったのです。「本物」を見る機会があるなら、好きとか嫌いとか、楽しいとかつまらないは度外視で、とりあえず見ておきなさい。“ソレハ イツカ ヤクニタツカラ”という親心。果たして今役に立っているかどうかわかりませんが、見るべき場所で「本物」を経験する。例えその時つまらないと感じても、アートを身近にしていく第一歩になっていくのではないかと思いますし、そうであって欲しいと願っています。