vol.26 「アプリーレ」のお話
主任専門学芸員 濱淵真弓
2012.8
開館以来、岩手県立美術館では美術館ニュース「アプリーレ」という印刷物を発行しています。先日出たのがNo.22。10年以上もの長きにわたり、みなさまにご愛顧いただいてまいりました。
タイトルは「開く」を指すイタリア語の言葉aprireから。まさに、実際に「アプリーレ」を手に取って、紙を触って、開いて、読んで、そして美術館に親しんでほしい、という願いを込めています。
一見、美術館ニュースに見えない表紙や紙質、形態もこちらの狙い。展覧会チラシと差別化を図りながら、フリーペーパーとしてなじみやすい形態やレイアウトで、美術館を身近に感じていただけるような工夫を施しています。
「アプリーレ」創刊以前には、全国の美術館ニュースといえば、何ページかの文章が作品やイベント活動の写真とともに掲載された、チラシと同じA4サイズの冊子タイプが典型でした。端には綴じられるようパンチ穴が2つ。読者が受け取り、個人でファイリングするものです。しかし綴じてしまわれるニュースでなく、手に取って美術館に足を運びたい、または手に持って美術館を回りたい、私たちはそう思わせるニュースを作りたかったのです。そこで持ちやすいA5サイズ、読者が開いていくことで話が展開するペーパーを提案しました。
肝心な中身は、展覧会やイベントの事前PRではなく、それらを振り返るレポートがメイン。また特集記事では、普段の美術館活動ではなかなかお伝えしづらいことを取りあげ、いつもとは違う視点で美術や美術館に興味を持っていただけるよう気遣っています。
こんなコンセプトのもと、「アプリーレ」が発行され続け早10年。ここ数年で同じようなタイプの美術館ニュースが見受けられるようになってきました。このような印刷物に対する考え方が全国の美術館の中で広がりつつあるのかな、と思います。
最後に、この10年の間でインターネットが不可欠な情報ツールとなり、ウェブサイトと印刷物の関係も非常に複雑になってきました。時代の流れに合わせ、アプリーレもダウンロードという形で、印刷物を入手しにくい遠方の方や、手に取るまでもないがちょっとPC上で閲覧したいという方にまで、お気軽にご利用いただけるようになりました。
けれども是非、印刷物の「アプリーレ」を触って開いて、楽しんでみてください。