vol.24 ルーヴル美術館からのメッセージ
主任専門学芸員 吉田 尊子
2012.6
展示の様子
4月27日から6月3日まで、当館の常設展示室で特別展示として「ルーヴル美術館からのメッセージ:出会い」を開催した。先に開幕していた「生誕100年 松本竣介展」と、ゴールデンウィークという条件が重なって、連日、予想をはるかに超える多くのお客様で展示室が賑わった。観覧者数は常設展だけでも17,000人を超え、松本竣介展と合わせると、この2か月余りで31,000人余りを数えた。当館としては大変嬉しい結果である。
大船渡WSの様子
無論、数字の大小ですべてを語れるわけではないが、昨年一年の観覧者数が約22,000人であったことを思うと、館に賑わいが戻ってきたことは素直に嬉しい。「ルーヴル効果」に拠るところが大きいと思われるが、大震災から一年余り経ち、多少なりとも人々の心に美術館に出かけてみようという気持ちの余裕が生まれてきたのだろうか。そうであってほしいと思わずにはいられない。 |
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さて、このルーヴル美術館展は、いうまでもなく東日本大震災がきっかけで、これまでルーヴル美術館が築いてきた日本との関係から、日本、東北被災地への連帯の気持ちをどのようにカタチにするか、そして、このような困難な時期に美術館としてどのような社会貢献ができるか、という視点から企画されたものだ。ルーヴルから示されたテーマは「出会い」。古今東西の人と人との関係を表す作品が選ばれた。今回日本に無償で貸出してくださった24点(展示は23点)は、ルーヴル内の8つのすべての学芸部門から選ばれたものだ。ルーヴルのような大美術館で、全セクションがまとまって一つの企画に向けて作業を行うということの大変さは想像に難くない。ルーヴル作品を扱う展覧会では、通常、4〜5年も前から時間と手間と経費をかけて準備するのだそうだが、本展は企画から展覧会の体制が整うまでに約半年という異例のスピードで段取りが進められた。そして本展の趣旨に賛同する多くの企業からの協賛によって開催経費も調った。
1月下旬の在日フランス大使館での記者発表後、開幕までわずか3か月しかなく、急ピッチで準備が進められたが、関係者とのやり取りのなかで一貫していたのは、ルーヴル美術館が東北の我々と交流を持ちたいと心から望んでいるという態度だった。まず、展示内容がルーヴル美術館の23点と東北3県各館の収蔵作品とのコラボという形であった。また岩手では、プレイベントとしてルーヴルのスタッフと沿岸被災地に出かけて行って高校生と交流する機会を持ったり、館内で講演会をしてもらったりした。展示作業においても、時間や言葉の制約はあったものの、ルーヴルのスタッフと対話しながら一つのものを作り上げることが出来たと思う。そして、日仏双方の多くの関係者の方々の情熱と惜しみない協力に支えられて、無事に開幕の日を迎えられたのは感無量であった。
ちなみに、この展覧会名はフランス語で「Rencontres」といい、「出会い」という邦題が付いているが、この単語には“誰かが誰かのために、何かをするために会いに行く”というニュアンスが含まれているのだそうだ。素敵な言葉である。そのような思いに支えられて日本にやってきた作品一つ一つが温かく心のこもったメッセージを携えている。本展は宮城、福島にも巡回するが、この機会に多くの方にさまざまな「出会い」を楽しんで、メッセージを受け取っていただきたいと思う。当館の会期中には沿岸地域の人たちにも来館してもらえるようバスツアーを組んだりしたが、私たちはメッセンジャーとしてルーヴル美術館の思いをきちんと伝えることができただろうか・・・展示室で好奇心に満ちた顔で作品に見入っていた多くの家族連れや高校生たちの笑顔が思い出されて、肩の荷が少し軽くなったような気がするのだ。