vol.18 てくてくツアー
主任専門学芸員 加藤俊明
2011.12
てくてくツアーの様子
美術館では、建物の中を見学する「美術館てくてくツアー」を各月に1回開催しています。このツアーでは、美術館の建物に関する見どころや、美術館ならではの様々な工夫や内装、さらには普段は見られない美術館の裏側を案内し、毎回大勢の方にご参加いただいています。
美術館のバックヤードでご案内するのは、スタッフが展覧会やワークショップを企画している学芸普及事務室、多くの美術書籍が保管されている書庫、美術品を積んだトラックが出入りする巨大な作品搬入口、美術品が大切に保管されている収蔵庫、美術品を運ぶための巨大なエレベーターなど。参加者の方々は目を見張らせながら一つ一つの説明に聞き入っています。
しかしこのツアーの目的は、単に参加者の方々に、珍しい美術館のバックヤードを開放して喜んでもらうことだけではありません。膨大な数の美術品や、時には幅6メートル以上に及ぶ巨大な作品を管理、展示するためにどれだけの労力が払われているか、どのような工夫がなされているかを参加者の方々に知っていただくことを目指しています。
美術品は、一般に考えられている以上にもろいものです。わずかな振動や、温湿度の微妙な変化も作品を傷つけかねません。作品の展示や調査の現場では、時折ヒヤリとする場面に出くわすこともあります。厳寒期に作品を運び込むとき、壊れかかっている作品を運ぶとき、額装されていない状態の作品を取り扱うときなどは、特に要注意です。
「美術品を長持ちさせる最良の方法は、展示せずに倉庫の中に保管しておくことだ。」という話を聞いたことがあります。これは極端な例としても、展示のために美術品を運ぶ時が、最も破損の危険があることは間違いありません。そうした危険を避けるために、美術館の建物の半分近くを占めるバックヤードには、様々な工夫が凝らされ、特殊な機材類も倉庫に保管されています。
ツアーはもっぱら作業の無い日に行われるため、バックヤードには人の気配がありませんが、展示作業が始まるときには、大勢の人が忙しく行き来します。細心の注意を払いながらそれらの作業が進められる様を思い浮かべてもらうことを目指しながら、ツアーは行われています。